横河電機がインダストリアル・ナレッジを設立、SaaS 事業を展開

Submitted by Bob Mick on

横河電機は2016年2月8日、同日から米フロリダ州オーランドで開幕したARC インダストリアル・フォーラムの記者発表会で、「プラントを超えて顧客のバリューを創出(Creating customer value beyond the plant)」と題する発表を行い、その中で独立事業ユニットとしてインダストリアル・ナレッジ(Industrial Knowledge)を設立し、SaaS (ソフトウエア・アズ・ア・サービス)事業に本格的に進出すると発表した。同社取締役専務執行役員でソリューションサービス事業本部長の黒須聡氏と、インダストリアル・ナレッジCEO のサイモン・ライト(Simon Wright)氏が発表した。

インダストリアル・ナレッジは、横河電機が今年1月に買収を発表したクラウド・データサービス・プロバイダのインダストリアル・エボリューション(Industrial Evolution, Inc.)を母体として設立され、新組織にはインダストリアル社のCEOだったサイモン・ライト氏がそのまま着任した。

黒須氏はまず、昨年設立100周年を迎えた横河電機の中期、長期の経営目標を紹介し、"Process Co-Innovation" を通じて顧客とイノベーションで協働する企業姿勢を強調。顧客事業のライフサイクルを通じてトータルなソリューションを開発・提供することで、顧客の事業価値の最大化を目指し、そのために企業枠を超えて多様な製造プロセスとインフラに横断的なソリューションを開発し提供することで、多企業間で協働と統合(multi-enterprise collaboration and integration)を実現する方針を表明した。

その具体的な展開として、独立した事業ユニットとなるインダストリアル・ナレッジの設立を発表した。横河電機が品質第一主義、高信頼 IA プラットフォームを基盤とする統合ソリューション、センシングとオートメーションの知識の蓄積、グローバル顧客との長期にわたる連携を専らとするのに対して、インダストリアル・ナレッジは、迅速な運用と変革、独自でセキュアなクラウド・プラットフォーム、業界枠を超えたデータ統合と分析に特化した知識、フォーチュン100社に含まれる大手を数多く含んだ幅広い顧客層、といった異なる技術文化を備えている。黒須氏は、このインダストリアル・ナレッジを独立事業ユニットとして連携することで、横河電機が顧客に対して、サプライチェーン流通のリスク低減、総合的エコ・システムの管理と最適化、プラントを超えた新たな価値の創出を提供できる、という。

横河電機のクラウド・ベースの高度ソリューション事業としては、インダストリアル・ナレッジのセキュアなプライベート・クラウド・プラットフォーム上に展開するDaaS(データ・アズ・ア・サービス)の上に、今後M&A や他社との連携を通じて、操業管理、生産管理、設備管理、操業シミュレーション及びシステム設計、既存システムの統合等の事業アプリケーションを展開する方針である。

サイモン・ライト氏は、2000年以降インダストリアル・エボリューション社で展開してきたリアルタイム・ベースのDaaS 事業の概要を紹介した。同社システムはOSI ソフトのPI システムおよびSQL 環境を基盤としてクラウド内に構築されており、様々なソースから吸い上げたデータを顧客の要求に応じてクラウド内で分析、シミュレーション、ワークフロー等付加価値をつけて遠隔・複数の社内外の顧客に提供する。大手プロセスライセンサは、このサービスを使用して、ライセンスを提供しているユーザの世界各地のプラントの多数のシステムや機器から、リアルタイムにデータを収集し、対象となるプロセスの稼働状況の遠隔監視や操業支援を行っている。同社の顧客リストには、石油・ガス、化学、電力、太陽光発電分野に多数の有力企業ふが含まれる。同氏によれば、これまでも顧客にはすでに横河電機のDCS を採用している企業も多く、そこからデータを取り込む事例が多いという。

同社のDaaS 事業は、すでにプラントと接続済みであり、産業レベルの堅牢なPI/SQL 技術を基盤として、数百万のデータポイントを収容する拡張性があり、事業として実証済みのセキュアで信頼性を確保、さらに、特定のデータソースやデータタイプ、アプリケーション・ベンダやサービス・プロバイダに縛られないサービスとしてIIoT を活用できる。また、分析、KPI、報告書作成エンジンを備え、新規に取得した技術の多層化による追加が可能であり、横河電機の既存のソフトウエア・ライブラリを高度化する可能性を持ち、新たなソリューション開発に適合するという意味でSaaS 事業展開力を備えている、という。

発表会場の記者からは、「これはまったく新規事業への参入ととらえてよいか」という質問があがり、これに対して黒須氏は「横河の事業戦略には新規事業への展開が含まれており、本件はその第一弾となる」と回答した。(Shin Kai)

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